自然の中で生きてきた鹿の革には、必ずと言っていいほど“傷”があります。
藪を駆け抜けたときについた擦り傷、オス同士が角をぶつけ合った痕、虫に刺された跡などなど。
それらは、野生の中で生きてきた証として革に刻まれ、まるで「物語」のように残っています。
けれど、革の世界ではこの傷が理由で、流通がとても難しくなるのが現実です。
傷を弾けば弾くほどロスは増え、価格は高騰する。
さらに、鹿は牛より体が小さく、鞣し加工そのものの単価も高くつく。
岩手では年間約3万頭が駆除されていますが、そのうち食肉で活用されているのは、わずか一割ほど。 革の利用はさらに少ない。
多くの命が、いまも廃棄されているのが現状です。
だからこそ、山ノ頂は“なるべく多くを使う”を前提に製品づくりをしています。
「傷がある」ことを欠点ではなく、その鹿が野生で生き抜いた証=価値だと考えています。
・浅い傷や小さな跡 → 個性としてそのまま活かす

・深い傷 → ステッチで補強し、安心して使えるように仕立て直す

・虫刺され痕やシミ → そのままだと見た目が気になる場合、ステッチで模様のように整える

こうしてできる製品は、一点ずつ表情が異なります。
同じものが二つとない「イッテンモノ」としての魅力を持った鹿革です。
野生の命を無駄にしないために。

山ノ頂を立ち上げてから4年。
おかげさまで本当に多くの方に手にとっていただけるようになりました。
まだ活用率は低いけれど、一頭一頭の命の輪郭を大切に受け取りながら、岩手の鹿革が地域の資源として循環していく未来をつくること。
それが、山ノ頂のものづくりの根っこにあります。
“傷のある革”を選ぶということ。

それは単に素材を選ぶという行為ではなく、野生で生きた命のストーリーを、そのまま生活に迎え入れること。
山を走り抜けた爪痕も、角を交えた痕も、自然の中で生きた時間そのもの。
山ノ頂では、その痕跡を「不良」ではなく、野生が刻んだ個性として受け取っています。
ぜひ、そうした背景を知ったうえで手に取っていただけたら嬉しいです。
あなたのもとで、鹿革の“続きの物語”がはじまります。
ご購入いただく際に、ひとつだけ知っておいてほしいこと。

山で生きた鹿の革だからこそ、まっさらな“完璧な革”ではないということ。
その代わり、世界にひとつの表情を持つ革の魅力を、そのまま受け取っていただけます。
傷やステッチも含めて「この鹿が生きた証」として楽しんでいただきたい。
そんな想いを理解したうえで選んでいただけると、とても嬉しく思います。